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熊本地方裁判所 昭和43年(行ウ)16号 判決

熊本市新市街五番一三号

原告

木下富雄

右訴訟人代理弁護士

本田正敏

熊本市二の丸一番四号

被告

熊本税務署長

西村福人

右指定代理人

川井重男

中島享

永田巳由

田川修

村上久夫

小田正典

合沢孝明

主文

本件訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告

「被告が原告に対し、(1)昭和四二年一月一一日付でなした(イ)昭和三六年分の所得税額を三、九三六、三三〇円とした更正処分および重加算税一、九六八、〇〇〇円の賦課決定処分、(ロ)昭和三八年分の所得税額を一八〇、五〇〇円とした更正処分および重加算税五四、〇〇〇円の賦課決定処分、(ハ)昭和三九年分の所得税額を三八三、一三〇円とした更正処分および重加算税一一四、九〇〇円の賦課決定処分、(ニ)昭和四〇年分の所得税額を三八六、五二〇円とした更正処分および重加算税一一五、八〇〇円の賦課決定処分、(2)昭和四一年九月二九日付でなした入場税一、八七九、六六〇円の賦課決定処分はいずれもこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決。

二  被告

主文同旨の判決

第二請求原因

一  被告は、原告に対し、請求の趣旨記載の昭和四二年一月一一日付の昭和三六年分、昭和三八年分ないし昭和四〇年分の各所得税額の更正処分、重加算税の賦課決定処分ならびに昭和四一年九月二九日付の入場税賦課決定処分をなしたと主張している。

二  しかしながら、原告は、右各日付のころ刑事々件の被疑者あるいは被告人として、熊本市京町一丁目一三番二号所在京町拘置支所に勾留されており、右各処分については、その更正通知書、賦課決定通知書の送達を受けていない。

三  それだけでなく、右所得税額の更正処分、重加算税の賦課決定処分、入場税賦課決定処分には、次のような違法事由がある。

(一)  所得税関係について

(1) 昭和三六年度における原告の所得は、すべて熊本大菊人形博覧会の入場料によるものであるが、収入総額が三三、三〇二、八七二円で、支出総額が三二、一六三、〇〇〇円であるから、その所得はわずかに一、一三九、八七二円であるところ、被告の認定する同年分の原告の所得三、九三六、三三〇円は過大にすぎる。

(2) 原告の昭和三八年分ないし昭和四〇年分の各所得は、熊本市新市街二番二二号所在の原告名義の家屋の家賃収入を見込んだものと思料されるか、右家賃は訴外永田清次外五名が第三者に賃貸し、収益を得ているものであるから、原告の収益とはならない。

(二)  入場税関係について

これについては、熊本税務署との慣行に基づく話合いにより決定した額は全額支払いずみであり、また、入場料総額の算定の基礎に誤りがある。

四  よつて、以上二・三の理由により、一記載の所得税額の更正処分、重加算税ならびに入場税賦課決定処分はいずれも取消されるべきものであるから、その取消を求める。

第三被告の本案前の抗弁、答弁および主張

一  本案前の抗弁

本件所得税更正等決定通知書については昭和四二年一月一一日、本件入場税賦課決定通知書については昭和四一年九月二九日、それぞれ適法に送達されていることは後記のとおりであるところ、原告は、被告に対し、昭和四二年九月二一日に至つて本件各所得税の更正等決定に対する異議申立書を提出したのであるから、原告の右異議申立については、昭和四五年三月二八日改正前の国税通則第七六条第一項の定める異議申立期間を徒過しており、また、本件入場税の賦課決定については、所定の不服申立をなしていないから、原告の本件訴は、右改正前の国税通則法第八七条所定の要件を欠くことになり、不適法として却下されるべきである。

二  答弁

請求原因第一項、同第三項の(一)の(1)の事実のうち昭和三六年分の原告の所得が熊本大菊人形博覧会の入場料によるものであることは認める、その余の事実は否認する。

三  主張

(一)  本件各処分の通知について

(1) 本件所得税額の更正処分、重加算税の賦課決定処分の通知は、昭和四二年一月一一日、当時原告が前記京町拘置支所に勾留されていたので、被告は、同所を原告の居所と認めて同支所長宛てにその処分通知書を送達し、翌一二日、右所長の指示に従い、その職員である法務事務官看守部長安藤喜四郎が原告に対し、右拘置支所面会所において、右各通知書を原告に読み聞かせ、かつ、これを示すことによつて履行された。

(2) 本件入場税の賦課決定処分の通知は、昭和四一年九月二九日、熊本税務署職員が、前同様原告の居所と認められる前記京町拘置支所の特別接見室において、看守立会のうえ原告に接見し、通知書送達のための接見である旨を告げ、同所において、その通知書を立会看守に手交し、右看守がこれを原告に手交し、原告はこれを開封して目を通したのであるから、それによつて履行された。

(3) よつて、右各処分通知書はいずれも有効に送達されている。

(二)  原告は、昭和三八年分ないし昭和四〇年分の所得税について家賃収入は原告に帰属するものでない旨主張するが、家賃収入の対象となつた建物の所有者は原告本人であり、被告の認定に誤りはなく、また、本件入場税について、熊本税務署において入場税を原告との話合いにより決定した事実はなく、入場料総額の算定にも誤りはない。

第四被告の本案前の抗弁に対する原告の主張

原告が本件各所得税の更正等決定を知つたのは、昭和四二年一月一二日ではなく、同年八月某日、国税局職員が原告方に租税の徴収に来たときであるから、原告が昭和四二年九月二一日なした右決定に対する異議申立は所定の期間内になされており適法である。

第五証拠関係

一  原告

証人廣嶋幸雄の証言、原告本人尋問の結果を援用し、乙第二号証については名刺の部分のみ成立を認め、その余の部分の成立は不知、その余の乙号各証の成立は認める。

二  被告

乙第一号証の一・二、第二ないし第六号証、第七号証の一ないし四、第八号証の一・二、第九号証の一ないし四、第一〇号証を提出し、証人安藤喜四郎・同末永秀太郎の各証言を援用した。

理由

一  まず、本件訴が適法であるかどうかを判断する前提として、本件各所得税額の更正決定、重加算税ならびに入場税の賦課決定の各通知書が、原告に適法に送達されたか、否かについて検討する。

(一)  本件各所得税額の更正決定、重加算税の賦課決定については、成立に争いのない乙第一号証の一・二、証人安藤喜四郎の証言およびこれによつて真正に成立したと認められる乙第二号証(名刺の部分については成立に争いがない)によると、昭和四二年一月一二日、被告から当時原告が勾留されていた前記京町拘置支所長宛に右各処分の通知書が送達されたこと、同日訴外法務事務官看守長林国彦が右各通知書の入つた封筒を開封したのち、右支所長の決裁を受け、訴外法務事務官看守部長安藤喜四郎に右通知書を手渡し、これを原告に交付するように指示したこと、右安藤が原告に対し、右拘置支所面会所において、右各通知書の内容を説明したうえこれを受け取るように示したこと、しかし、原告は、これを受け取らず、右安藤に対し、これを被告に返送するように申し出たことが認められ、原告本人尋問の結果のうち、右認定に反する部分は信用できない。

(二)  次に、本件入場税の賦課決定については、いずれも成立に争いのない乙第四ないし第六号証、証人末永秀太郎・同廣嶋幸雄の各証言によると、訴外熊本税務署職員末永秀太郎は外一名と共に、昭和四一年九月二九日、熊本地方裁判所裁判官の接見許可を得て、前記京町拘置支所特別接見室において、看守立会のうえ原告に接見し、昭和三六年九月分ないし一一月分の入場税の賦課決定通知書および納税告知書を原告に交付するために接見を求めた旨を告げ、右書面の在中する封筒を立会の看守に手渡し、右看守がこれを原告に手交したこと、そして原告はその封を開き、これに目を通したのち昭和三六年分の入場税は既に納付してあるから、これは受け取れない旨告げ、これをその場にあつた机の上に置いて席を離れたことが認められ、原告本人尋問の結果のうち、右認定に反する部分は信用できない。

右(一)・(二)の認定事実からすると、前記各通知書はいずれも当時原告の居所である前記京町拘置支所に適法に送達がなされ、原告がその内容を了知し、あるいは了知し得べき状態におかれたことが明らかであるといわなければならない。

二  ところで、昭和四五年三月二八日改正前の国税通則法第七六条第一項・第八七条第一項によると、税務署長の課税処分の取消を求める訴は、原則として、その処分の通知を受けた日の翌日から一月以内に、その処分をした税務署長に対して異議申立をなし、これについての決定を経、さらにそれに不服のある者は所轄の国税局長に対して審査請求をなし、その裁決を経た後でなければこれを提起することができないところ、本件所得税額の更正決定、重加算税の賦課決定については、その通知が前記認定のとおり昭和四二年一月一二日になされており、成立に争いのない乙第三号証、原告本人尋問の結果によると、原告は、被告に対し、右通知を受けた日から八月余後の同年九月二一日に至つて異議申立をなしたが、被告は、前記第七六条第一項の定める異議申立期間を徒過した異議申立であるとしてこれを却下したことが認められ、また、本件入場税の賦課決定については、原告が被告に対し、異議申立をなしたことを認めうる証拠はない。

そして、ほかに同法第八七条第一項但書に定める異議申立についての決定、審査請求についての裁決を経ることなく直接出訴できる場合に該当する事情は認められないから、本件訴は、いずれも適法な不服申立手続を経ていない訴として右第八七条第一項本文の要件を欠くことになり、従つて、その余の判断を俟つまでもなく不適法として却下されるべきものといわざるをえない。

三  よつて、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 斎藤次郎 裁判官 鴨井孝之 裁判官 大田朝章)

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